昨年、FiiOが発売したFT1は、わずか149ドル(発売当時、現在は約10%値上がり)という価格で、驚異的なビルドクオリティと音質を実現し、オーディオファンコミュニティに大きな衝撃を与えました。FiiOにとって3代目のフルサイズヘッドホンでしたが、これが同社を一気に「本気でヘッドホンを作れるメーカー」として認知させるきっかけとなりました。
それからちょうど1年。FiiOは木製密閉型ラインナップをさらに進化させ、FT13を発表しました。FT1の正統進化モデルでありながら、デザインに変更を加え、特に音のチューニングが大きく変わったのが特徴です。価格はFT1の約2倍(約300USD前後)と大幅に上昇しましたが、それでもこのクオリティであれば十分「買い」だと感じる人も多いでしょう。
以下では、両モデルを徹底的に聴き比べた結果を詳細にまとめます。
仕様比較
| 項目 | FiiO FT1 | FiiO FT13 |
|---|---|---|
| 形式 | 密閉型ダイナミック | 密閉型ダイナミック |
| ドライバー | 60mm | 60mm |
| インピーダンス | 32Ω | 32Ω |
| 感度 | 98dB/mW or 113dB/Vrms | 98dB/mW or 113dB/Vrms |
| 周波数特性 | 10Hz~40kHz | 7Hz~40kHz(低域がより深い) |
| ハウジング材質 | ウォールナット/ビーチ実木 | パープルハート天然木 |
| ヘッドバンド | 標準 | マグネシウム合金+ラムスキン+厚めパッド |
| イヤーパッド | 1種類(ハイブリッド) | 2種類付属(ラムスキン/スエード) |
| パッド着脱方式 | 汎用リップ&ノッチ方式 | 専用クリック式(サードパーティ制限) |
| ケーブル | 1.5m 銀メッキOFC | 1.5m 単結晶銅+銀メッキOFC(高級感↑) |
| コネクタ | 両側3.5mm(ほぼ直角) | 両側3.5mm(角度付き) |
| プラグ | 3.5mm/4.4mm交換式+アダプタ付属 | 同左 |
| 付属品 | セミソフトケース | より上質なセミハードケース |
| 重量 | 340g | 356g |
ビルドクオリティと装着感
見た目は「FT1の兄弟機」と言えるほど近いですが、実際に手に取るとFT13の方が明らかに上質です。
- ヘッドバンドはマグネシウム合金フレーム+厚めのラムスキンパッド+内側スエード仕上げで、長時間装着しても頭頂部が痛くなりにくい
- イヤーカップ形状がFT1の軽い楕円から完全な円形に変更
- 重量は16g増えただけなのに、重量配分が改善されておりFT13の方が軽く感じる人が多い
- ケーブルも見た目・触感ともに明らかに高級
装着感ではFT13の圧勝です。
イヤーパッドの影響が極めて大きい
FT13は2種類のパッドが同梱されており、音が劇的に変わります。
- ラムスキンパッド(フルスキン) → 非常に明るくシャープ、トレブルが刺さりやすい
- スエードパッド → 暖かみがあり低域が強い、V字型が強調される
筆者はフルスキンパッドは明るすぎて常用不可と判断し、比較は全てスエードパッド装着のFT13で行いました。
一方、FT1は発売後、サードパーティの羊皮パッド(後にFiiO純正HS-FT1Aとして発売)が大人気となりました。今回はFT1には羊皮パッドを装着して「最強のFT1」として比較しています(ストックパッドとの違いも後述)。
音質比較(使用機材)
- DAC:RME ADI-2 DAC FS
- AMP:Questyle CMA800R Current Mode
- FT13:スエードパッド
- FT1:主に羊皮パッド(+ストックパッド参考聴音)
試聴曲別印象
| 楽曲 | FT1(羊皮パッド) | FT13(スエードパッド) |
|---|---|---|
| Portishead – It Could Be Sweet | 自然で滑らか、低域控えめ | 低音が強くトレブル鋭く、音場が広い |
| Olga Konkova – As Before | ボーカルが自然で温かい | 音場は広いがボーカルがドライ |
| Tool – Vicarious | 中域が自然、全体的にニュートラル | 解像度が高く低域パンチ強いがドライ |
| a-ha – The Sun Always Shines | 驚くほど近い、どちらも素晴らしい | 同左 |
| David Kushner – Daylight | 深みのある男声が自然 | 分離感・音場で勝るがボーカルがやや遠い |
| Tord Gustavsen Trio – Graceful Touch | フラットで上品 | 空間表現が圧倒的、低域も温かい |
| Tom Waits – Georgia Lee | 自然で情感豊か | 音場が広くトレブル鋭いがシビランス出る |
| Boris Blank – Escape Route | スムーズで落ち着いた表現 | ダイナミックで低域の量感・質感ともに上 |
| Laura Marling – Rambling Man | 自然 | 女声ボーカルの解像度・躍動感で明確に上 |
| Mahler Symphony No.2 | 暖かく濃密な中域 | 細かい環境音まで聴こえるがやや遠い |
| Norah Jones – Sunrise | 非常に近い、どちらも最高級 | 低音が強く、意外にもボーカルが温かい |
音の傾向まとめ
| 項目 | FT1(羊皮パッド) | FT13(スエードパッド) |
|---|---|---|
| 音の傾向 | ほぼニュートラル~やや暖かい | 明確なV字型(低域・高域強調) |
| 低域 | 量は控えめだが質が高い | 量・インパクトともに明確に多い |
| 中域 | 自然で前へ出る、ボーカルが美味しい | やや後退、ドライ傾向 |
| 高域 | 滑らかで刺さらない | シャープで解像度高いがシビランス出やすい |
| 音場 | 価格帯では非常に広い | さらに一回り広く、特に奥行きが深い |
| 解像度/ディテール | 非常に高い | さらに上、特に中高域の微細情報 |
| ダイナミクス | 良好 | よりコントラストが強く、躍動感がある |
| ティンバー(音色) | 圧倒的に自然 | 曲によるがドライ・薄くなる傾向 |
結論(ストック状態) FT13は「技術的に上」ですが、音楽的な自然さ・心地よさではFT1が勝る場面が非常に多いです。特にボーカル曲やアコースティックではFT1の方が「正しい音」に聴こえることが多かったです。
衝撃の結論:FT13 + チューニングフォーム改造で全てが変わる
実はFT13個別レビューで紹介した超簡単チューニングフォーム改造(Sennheiser HD600用フォームをドライバー前に貼るだけ)が、この比較の結論を完全に覆します。
- 薄いフォーム(2-3mm)+スエードパッド
- 厚いフォーム(4-5mm)+ラムスキンパッド ← これが最強
この改造後、FT13は以下の変化が起こります:
- 高域の鋭さが完全に抑えられ、刺さらなくなる
- 中域が前に出て、ボーカルが極めて自然に
- 低域は量感を保ちつつ締まりが増す
- 結果、V字が完全に解消され、極めてニュートラルかつ高解像度なチューニングに
改造後FT13は、FT1(羊皮パッド含む)を全ての面で圧倒しました。音場、解像度、ティンバー、自然さ、どれを取っても上。まさに「300ドルで買える最強木製密閉ヘッドホン」へと変貌します。
最終結論とおすすめ
| 状況 | おすすめモデル |
|---|---|
| ストック状態でそのまま使いたい | FT1(+HS-FT1Aパッド推奨) |
| 自然な音色・ボーカルを最重視 | FT1 |
| 広い音場・強い低音・高い解像度を求める | FT13(スエードパッド) |
| 改造OKなら最高のコスパを求める | 断然FT13+フォーム改造 |
| 予算150~170ドル程度 | FT1 |
| 予算300ドルまで出せる | FT13(改造前提なら迷わずこれ) |
FiiO FT1は今でも「奇跡のヘッドホン」です。 しかし、FT13+簡単フォーム改造は、その奇跡を完全に超えてしまいました。
300ドル以下でこれ以上の木製密閉ヘッドホンは、正直もう存在しないと断言できます。





